共栄鍛工所 第三鍛造工場

新潟県三条市

共栄鍛工所 第三鍛造工場は、2009年に完成した第二鍛造工場(新鍛造工場)の隣に新たに建設された防音工場である.
第三鍛造工場にはハンマーが4台設置され、ハンマーが2台設置されている第二鍛造工場よりも延床面積で1.5倍大きくなっている.
この防音工場を成立させるには「熱・音・振動」の3つの課題があり、完成した建物は室内での鍛造作業の騒音と振動を外部に出さない作りになっているが、単純に建物を閉じるだけではなく、鍛造作業で発生する高熱を、粉塵はフィルターで捕集しつつ、外部に排出しながら室内環境を正常に保つため、防音・防振と同時に十分な換気、空調、採光を確保する必要があった.その閉じながら開くを可能にするための工夫が随所に施された建物である.

西側外観.

北西側外観.左奥に第二鍛造工場が並ぶ.

南東側の鳥瞰.第二鍛造工場と第三鍛造工場はL字に並ぶ.写真中央にある小さなRC造の建物が第三圧縮/電気室であり、ここからハンマーの動力である圧縮空気が送られている.

北西側の鳥瞰.写真の手前側である敷地北側には信濃川が流れ水田が広がっているが、写真の奥側である敷地南側の街道沿いには集落が立ち並んでいる.

2009年に第二鍛造工場、2024年の春に第三鍛造工場が完成した.第二鍛造工場には3tハンマーと2tハンマーの2台が設置され、第三鍛造工場には、3t、1.75t、1.25t、1.25tのハンマー4台が設置されている. 基本的な方針として鍛造作業室をシンプルで明快な構造に保つため、エネルギー源である電気室・圧縮室を別棟にしている.14年にわたる第二鍛造工場稼働データと使用実績から、第三鍛造工場には新たな工夫とバージョンアップされた機能が組み込まれている.

鍛造作業室.

鍛造作業室.

鍛造作業室.

鍛造作業室.

[巨大ハンマー基礎により振動を低減]
小舟で人が飛び跳ねると船は大きく揺れ、水面には波紋が広がる.しかし大船の上で人が飛び跳ねても船は揺れない.それと同様に、振動源に対して可能な限り重量のある基礎を設け、基礎が振動しづらい状態をつくっている.第三鍛造工場では、ハンマー4台の基礎を一体にし、実質的に基礎の大きさと重量を大きくして防振効果を高めている.
[絶縁の工夫]
ハンマー基礎と基礎ピットの間に、硬質発泡スチロール(EPS)を挟む.24kN/m³の重さの鉄筋コンクリートと周辺地盤との間に、0.12~0.35kN/m³の軽量材(硬質発泡スチロール)を挟むことで、振動の地盤への伝搬を遮断している.
[エアバネと油圧ダンパーの導入]
鍛造ハンマー直下にはエアバネと油圧ダンパーを設置し、振動エネルギーを吸収している.

上記3つの対応により、鍛造ハンマーの振動が周辺地盤に伝わらないように設計されている.敷地の表面地盤は、粘土層と砂質土が交互に堆積した軟弱な地層である.基礎方式はGL-20m近くの密実な砂層を支持地盤とする杭基礎としている.

ハンマー基礎の配筋工事中の施工写真.

ハンマー基礎部分で切断した断面パース.

[換気システム]
第二鍛造工場と同様に換気回数20回/h、つまり3分毎に工場内の空気を全て入れ替えるための換気量を設定した.工場内の面積はおよそA=26m×47m=1,222m²で、気積はV=1,222m²× 10m=12,220m³である.20回/hの必要換気量はV=12,200m³×20回/h=244,000m³/hとなる. 第三鍛造工場では、4台の排気ファン(72,000m³/h×4台)で、288,000m³/hの換気量を確保している. 経済性を考慮し、給気は自然給気とし、排気のみ排風機を使用する、第三種換気方式としている。

換気システム図.水色の部分が給気装置、赤色の部分が排気装置になっており、建物全体で換気を行っている.

ファンルームの巨大ファン4台.

給気シャフト詳細図.

設置前の縦型給気シャフト用消音器.
これで1セットになっており、これらが設置された縦型給気シャフトが12カ所ある(撮影=北園空間設計)

縦型給気シャフト内消音器の内側を見上げる.
この空洞を通して、屋外と屋内の空気は連続している.空気の流れと音の流れは逆向きである.空気を外から取り入れながらも、騒音はこの給気シャフト内部に張り巡らされた消音器で消されている.

屋外で縦型給気シャフトの給気口を見上げる.

明るい鍛造作業室にするために、ガラスブロックで60dBの遮音性能を確保しながら、十分な採光を実現している.第三鍛造工場建設時には遮音ガラスブロックの製造が中止になっていたため、普通ガラスブロックを3重にして遮音ガラスブロック2重と同様の遮音性能を持たせた.厚みのあるガラスが奥行きを持って積層したことにより、西日が当たっている時などは、室内に入る光がとろりとした質量をともなって感じられることがある.ガラスブロックには、透過性と表面の模様にいくつかの種類がある.3重のガラスブロックのそれぞれの層に、異なる表情のガラスブロックを使った.光の入り方、見え方を豊かにしようと工夫したものである.

ガラスブロック外観.表面模様の異なる数種類のガラスブロックを使用している.

ハンマーが設置された鍛造作業室.

ハンマーが設置された鍛造作業室.

ハンマーが設置された鍛造作業室.

鍛造作業室から見学者デッキを見上げる.

見学者デッキに上がる階段.

ブリーフィングルーム(映像室)へ入場する通路.

ブリーフィングルーム(映像室).

北西側外観の夕景.

遠景の夜景.

西側外観の夜景.

共栄鍛工所 第三鍛造工場 所在地:新潟県三条市
構造:RC造 一部S造 敷地面積:15972m² 建築面積:1641m² 延床面積:1923m² 竣工:令和6年

株式会社 北園空間設計
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